「むらさきのスカートの女」今村夏子 2019年第161回芥川賞(単行本 160ページ)
うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいる。
という一文からはじまるこの小説。その後”むらさきのスカートの女”というフレーズは作品中に何回出てくることだろう。
最初の1ページだけでも4回出てくる。
近所のぼろアパートに一人暮らしをするむらさきのスカートの女。近隣住民の中で、むらさきのスカートの女の存在を知らない人はいないと”わたし”はいう。
”わたし”は、むらさきのスカートの女の「ストーカー」である。
でも、何か相手に危害をくわえるような、一般的なイメージのストーカーとは一風かわった、(気の利いた?)(良性の?)ストーカーである
わたしとむらさきのスカートの女は、ただ近所に住んでいるというだけで、元々面識はない。でも、
わたしはもうずいぶん長いこと、むらさきのスカートの女と友達になりたいと思っている。
わたしは、職探しに難航するむらさきのスカートの女を自分と同じ職場―ホテルの客室清掃員ーに就くように仕向ける。
求人情報誌のページに印をつけ、むらさきのスカートの女がよくおとずれる近所の公園のベンチにそっと置いておいたりして。
こうしてわたしは、オンもオフも、むらさきのスカートの女を近くで見守ることのできる体制をつくることに成功する。
わたしはむらさきのスカートの女が困った状況におちいるたびに、本人に気づかれぬよう、さりげなく救いの手をさしのべようとする。
そんな母親のようなわたしの心配をよそに、むらさきのスカートの女はやがて「同僚」や「男」との波乱な関係の中へはいりこんでゆく。
わかりやすいタイトルをつけるとすれば「むらさきのスカートの女観察記」。